三叉神経痛
三叉神経痛について
三叉神経痛は、顔面の感覚を司る三叉神経に起こる、発作的な激しい痛みが特徴の病気です。この痛みは主に顔の片側に現れ、歯茎、顎、頬、額などに電気が走るような、あるいは刺されるような激しい痛みが数秒から数十秒間続くことが多いです。多くの場合、洗顔、歯磨き、食事、会話といった日常の些細な動作で痛みが誘発されます。生命に関わる病気ではありませんが、痛みが非常に強く、日常生活に支障をきたすことがあります。
三叉神経は脳から顔面へと伸びる重要な神経で、左右に1本ずつ存在します。この神経は途中で3つの大きな枝に分かれていることから「三叉」と名付けられました。
- 第1枝:目から上、おでこや前頭部の感覚に関わります。
- 第2枝:目より下、口より上の頬のあたりの感覚に関わります。
- 第3枝:顎や下唇のあたりの感覚に関わります。
顔の痛み、触覚、冷たさ、熱さなどの感覚は、この三叉神経を介して脳に伝えられます。また、三叉神経は咀嚼(噛む)運動にも関与しています。
三叉神経痛の主な原因は、脳幹から出てすぐの三叉神経が、血管(動脈や静脈)によって圧迫されることです。血管の拍動が神経に繰り返し刺激を与えることで痛みが生じると考えられています。これは、加齢や動脈硬化などによって血管が神経に接触するようになることで起こることが多いです。
まれに、血管の圧迫以外に、類上皮腫、神経鞘腫、髄膜腫といった脳腫瘍が神経を圧迫している場合や、脳動脈奇形が原因となることもあります。
三叉神経痛の症状について
三叉神経痛の痛みにはいくつかの特徴があります。
- 短時間の激しい痛み:電気が走るような、または刺されたような鋭い痛みが特徴で、ほとんどの場合は数秒から数十秒と短時間で治まります。痛みが何分も続く場合や、じりじりとした痛みは三叉神経痛ではない可能性が高いです。
- 痛みの誘発:洗顔、お化粧、ひげ剃り、歯磨き、食事、会話、冷たい水を飲むといった日常動作で痛みが誘発されやすいです。鼻の横など、特定の場所を触ると痛みが走る「トリガーポイント」があることも特徴です。
- 痛みの部位:三叉神経の3つの枝のうち、どれか1つ、または隣り合った2つの枝の範囲に痛みが現れることが多いです。特に第2枝(頬)や第3枝(顎)に多く見られます。
- 不応期:痛み発作の後、一時的に痛みが起きない「不応期」を伴うことがあります。
- 季節による変動:季節によって痛みが変動するという特徴もあり、11月や2月に痛みがひどくなる方もいらっしゃいます。
受診を強く推奨する症状や状況
三叉神経痛は、歯の痛みと間違われることも少なくありません。歯科を受診しても改善しない場合は、三叉神経痛の可能性があります。以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
- 顔の激しい痛みが頻繁に起こり、日常生活に支障をきたしている場合
- 痛みが長期間持続し、重度になっている場合
- 顔の痛みだけでなく、顔や頭部に赤い発疹や水ぶくれがあり、痛みやかゆみが続く場合(帯状疱疹の可能性)
- ものを飲み込む時に喉の奥に痛みが走り、耳の奥や首の前面に痛みを感じる場合(舌咽神経痛の可能性)
- 痛み以外の神経症状(麻痺、感覚の異常など)を伴う場合
- 一般的な鎮痛剤が効かない場合
自宅でできる対処法やセルフケア
痛みが誘発される動作を避けることが重要です。
- 洗顔や歯磨き:痛みのない側で行う、または柔らかいタオルで優しく拭く、電動歯ブラシを試すなど工夫する。
- 食事:柔らかいものを選び、痛まない側でゆっくり噛む。冷たいものや熱いものを避ける。
- ひげ剃り:電動シェーバーを使うなど、肌への刺激を減らす。
- 保温:冷たい風に当たらないよう、マフラーやマスクなどで顔を保護する。
市販薬は一時的な痛みの緩和に役立つことがありますが、三叉神経痛の根本的な治療にはなりません。痛みが続く場合は、必ず医療機関を受診してください。
三叉神経痛の診断と検査について
三叉神経痛の診断において最も重要なのは、患者様から痛みの症状や経過を詳しくお聞きすることです。典型的な三叉神経痛は、問診によってある程度の見当をつけることができます。
診断を確定するために、以下の検査が行われます。
- 薬物療法による診断的治療:三叉神経痛の特効薬とされるカルバマゼピン(商品名:テグレトール®)を試しに服用し、痛みが軽減するかどうかを確認することも診断の有力な手がかりとなります。
これらの画像診断と詳細な問診を組み合わせることで、正確な診断を行います。また、三叉神経痛と症状が似ている他の疾患(帯状疱疹後神経痛、副鼻腔炎、片頭痛、舌咽神経痛、非定型顔面痛など)との鑑別も重要です。当院では、脳神経内科の専門医が、これらの疾患との区別を慎重に行い、適切な診断へと導きます。
三叉神経痛の治療法について
三叉神経痛の治療には、薬物療法と手術療法があります。患者様の症状や状態、生活状況に合わせて、最適な治療法を選択します。
薬物療法
痛みの原因を根本から取り除くものではありませんが、痛みを緩和し、日常生活の質を向上させることを目指します。
- カルバマゼピン(商品名:テグレトール®):三叉神経痛に特に有効な抗てんかん薬です。神経の伝導を抑制することで痛みを和らげます。8割以上の患者様で一時的に痛みが消失または改善すると言われています。
- 副作用:眠気、ふらつき、肝機能障害、白血球を含む血球減少症などが起こることがあります。特に注意が必要な重篤な副作用として、スティーブンス・ジョンソン症候群という全身性の発疹や水ぶくれがあります。服用開始後も定期的な血液検査や診察で経過を観察し、異常が見られた場合は速やかに服用を中止する必要があります。
- その他の薬剤:カルバマゼピンの効果が不十分な場合や副作用で使用できない場合に、プレガバリン(商品名:リリカ)、ラモトリギン(商品名:ラミクタール)、バクロフェンなどの薬が使用されることもあります。
手術療法
薬物療法で効果が不十分な場合や副作用のために継続できない場合、あるいは脳腫瘍が原因で三叉神経痛が起こっている場合に検討されます。
- 微小血管減圧術(MVD: Microvascular Decompression):神経を圧迫している血管を神経から離し、再接触しないように人工物で固定する手術です。痛みの原因を根本的に取り除くため、最も効果が期待できる治療法とされています。手術により80〜90%程度の患者様で痛みのコントロールが消失または改善すると報告されています。
- 合併症:顔のしびれや感覚鈍麻、ものが二重に見える(外転神経麻痺)、聴力低下、脳出血、髄液漏などのリスクがごくまれにあります。
- 定位放射線治療(ガンマナイフなど):脳の外から三叉神経に放射線を集中して照射することで、痛みを軽減させる治療法です。全身麻酔が難しい方や高齢者に向いています。6〜8割の患者様に有効とされていますが、顔面の痺れや違和感が副作用として挙げられます。
その他の治療法
- 神経ブロック(三叉神経ブロック):三叉神経に局所麻酔薬や神経破壊薬を注射し、痛みを感じにくくする方法です。高い即効性が期待できますが、効果は一時的であり、顔の痺れが残ることがあります。
当院では、患者様の状態を総合的に評価し、適切な治療方針をご提案いたします。手術や定位放射線治療が必要な場合は、関連施設の専門医をご紹介し、連携して治療を進めます。
よくある質問
Q1:三叉神経痛はどんな人がなりやすいですか?
A1:三叉神経痛は50〜60歳代の方に多く見られる傾向がありますが、若年成人や高齢者でも発症することがあります。特定の原因疾患がない「特発性三叉神経痛」の場合、加齢や動脈硬化に伴い血管が蛇行して神経を圧迫することで生じることが多いと考えられています。
Q2:三叉神経痛の痛みに市販薬は効きますか?
A2:市販の鎮痛剤は、三叉神経痛の鋭い痛みに効果が限定的であることが多いです。痛みが一時的に緩和されることはあっても、根本的な治療にはなりません。痛みが続く場合は、我慢せずに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることをお勧めします。
Q3:三叉神経痛は自然に治ることはありますか?
A3:三叉神経痛の痛みは自然に軽減することもありますが、一般的には、原因となっている神経の圧迫が解消されない限り、痛みが繰り返し生じることが多いです。放置すると痛みが悪化し、日常生活に大きな支障をきたす可能性もありますので、専門医への相談が重要です。