アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症について
アルツハイマー型認知症は、脳の機能が徐々に低下し、記憶力や思考力、判断力などに影響を及ぼす病気です。ご本人だけでなく、ご家族にも大きな影響を与える可能性があるため、早期に症状に気づき、適切な対応を始めることが大切です。
当院では、脳神経内科の専門医が、患者様お一人おひとりの状態に合わせた丁寧な診療を心がけております。もの忘れや気になる症状がある場合は、どうぞお気軽にご相談ください。
アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も多く見られるタイプで、日本では認知症患者の半数以上を占めると報告されています。高齢になるほど発症しやすく、特に85歳以上で急増すると言われています。
この病気は、脳の神経細胞が徐々に失われ、脳全体が萎縮していくことで進行します。特に記憶を司る「海馬」という部分に変化が起こるため、新しい記憶を作ることが難しくなるのが特徴です。
アルツハイマー型認知症の考えられる原因
アルツハイマー型認知症の原因はまだ完全には解明されていませんが、脳内に「アミロイドβ」や「タウ蛋白」といった特殊なタンパク質が異常に蓄積することが大きく関係していると考えられています。これらのタンパク質の蓄積は、症状が出る何年も前から始まっていると言われています。
遺伝的な要因が関わることもありますが、アルツハイマー型認知症全体の約10%程度とされ、若年で発症するケースの一部に見られます。多くの場合は、加齢のほか、糖尿病や高血圧、喫煙、運動不足などの生活習慣が発症リスクを高めると指摘されています。
アルツハイマー型認知症の症状について
アルツハイマー型認知症の症状は、主に「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」の2つに分けられます。症状の現れ方や進行のスピードには個人差があります。
中核症状
脳の神経細胞が損傷を受けることで直接現れる症状です。
- 記憶障害
- 最近の出来事を思い出せない、同じ話を繰り返す、物の置き場所を忘れる、約束を忘れるといった症状が見られます。経験したこと自体が記憶から抜け落ちるのが特徴です。
- 見当識障害
- 時間(今日が何月何日か、今の季節など)が分からなくなり、進行すると場所(今どこにいるのか)や人(目の前の人が誰か)も分からなくなることがあります。
- 実行機能障害
- 物事を順序立てて行うことが難しくなります。料理の段取りが悪くなる、仕事や家事がスムーズにできなくなるといった症状が見られます。
- 言語障害
- 物の名前が出てこない、言葉の意味が理解しにくくなるなど、言葉のやり取りに支障が出ることがあります。
- 視空間認知障害
- 図形を正確に模写できない、慣れた場所でも道に迷うといった症状が見られます。
行動・心理症状
中核症状によって引き起こされる、行動や心理面での変化です。患者様の性格や環境、周囲の接し方によって現れ方が異なります。
- 意欲低下・無関心
- これまで好きだったことや日課に興味を示さなくなり、何事にも億劫がることがあります。
- 抑うつ・不安
- 自分の能力の低下に不安を感じ、気分がふさぎ込んだり、一人になることを怖がったりすることがあります。
- 妄想
- 「物を盗られた」と思い込む「物盗られ妄想」が比較的多く見られます。
- 徘徊
- 目的もなく外を歩き回ることがあります。
- 興奮・暴力
- イライラしやすくなり、暴言を吐いたり、時には暴力的になったりすることがあります。
- 幻覚
- 実際にはないものが見える(幻視)ことがあります。
受診を強く推奨する症状や状況
以下のような症状が見られる場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
- 同じことを何度も言ったり、聞いたりする回数が増えた。
- 人や物の名前が思い出せないことが頻繁にある。
- 慣れた場所で道に迷うようになった。
- これまでできていた家事や仕事の段取りが悪くなった。
- 日付や曜日が分からなくなることが増えた。
- 性格が変わったように感じる、怒りっぽくなった、無気力になった。
- 物を盗られたと訴えるなど、妄想が見られる。
- 本人に自覚がない物忘れがある(ご家族が気づくことが多いです)。
アルツハイマー型認知症の診断と検査について
アルツハイマー型認知症の診断は、問診や神経心理学的検査、脳画像検査などを組み合わせて総合的に行われます。早期に正確な診断を行うことで、適切な治療やケアに繋げることができます。
当院では、患者様の症状や状態に合わせて、以下の検査を行います。
- 面談・診察
- 患者様ご本人やご家族から、症状の経過、日常生活での困りごと、病歴などを詳しくお伺いします。神経学的診察も行い、運動機能や感覚障害の有無などを確認します。
- 神経心理学的検査
- 記憶力、見当識、注意力、言語能力、実行機能などを評価するための検査です。質問に答えたり、簡単な作業を行ったりする形式で進められ、「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」や「ミニメンタルステート検査(MMSE)」などを行います。これは、物忘れが加齢によるものか、認知症によるものかを判断する手がかりとなります。
- 身体検査
- 血液検査や尿検査、心電図検査などを行い、他の病気が原因で認知症のような症状が出ている可能性(甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症など)がないかを確認します。これにより、今後どのような治療を進めるかを決定する上で、全身の状態を把握します。
- 脳画像検査
- CT検査: MRIと同様に脳の形態を調べますが、特に脳出血の診断に優れています。
- 必要に応じて、より詳細な脳の機能やアミロイド蓄積を調べるPET検査、脳血流SPECT検査なども、連携医療機関と協力してご案内することがあります。
- 脳脊髄液検査
- 腰から針を刺して脳脊髄液を採取し、アミロイドやタウの量を測定することで、診断の精度を高める検査です。この検査が必要な場合は、連携医療機関をご紹介いたします。
アルツハイマー型認知症の治療法について
現在、アルツハイマー型認知症を完全に治す治療法は見つかっていませんが、病気の進行を遅らせ、症状を穏やかにする薬物療法と、認知機能を活性化させる非薬物療法があります。早期に適切な治療を開始することで、病状の軽い期間を延ばし、患者様がより長く自分らしい生活を送れるようサポートします。
薬物療法
主に以下の2種類の薬が用いられます。これらの薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、認知機能の低下を緩やかにする効果が期待できます。
- コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンなど)
- 脳内で記憶や学習に関わる神経伝達物質である「アセチルコリン」の分解を抑え、脳の働きを活性化させます。軽度から中等度のアルツハイマー型認知症に用いられます。
- NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)
- 脳内の神経細胞の興奮を抑え、神経細胞が過剰な刺激によって傷つくのを防ぎます。中等度から高度のアルツハイマー型認知症に用いられ、コリンエステラーゼ阻害薬と併用されることもあります。
- 新しい治療薬「レカネマブ(レケンビ®)」
- 2023年12月に発売された新しい薬で、脳内に蓄積するアミロイドを除去する作用があります。軽度認知障害(MCI)から軽度アルツハイマー型認知症の患者さんに適用され、認知機能の低下を遅らせる効果が確認されています。当院では連携医療機関と協力し、レカネマブ治療の導入やフォローアップにも対応しております。
非薬物療法(予防・自宅でのケアも含む)
薬に頼らない治療法や、日常生活の中で行えるケアや予防策も重要です。
- 脳の活性化
- 回想法: 昔の思い出を語り合うことで、精神的な安定や認知機能の活性化に繋がります。
- 認知機能訓練(認知トレーニング): 日記を書く、絵を描く、パズル、計算など、脳を使う活動を取り入れます。
- 運動療法: 適度な運動は脳を活性化させ、身体機能の維持にも役立ちます。散歩や軽い体操など、無理のない範囲で継続することが大切です。
- 音楽療法、園芸療法: 音楽を聴いたり歌ったり、植物を育てることで、感情の安定や意欲の向上に繋がります。
- 生活習慣の改善
- 食事: バランスの取れた食事を心がけ、特に魚の摂取は認知症のリスク低下に繋がると報告されています。
- 生活習慣病の管理: 高血圧、糖尿病、脂質異常症などは認知症のリスクを高めるため、これらの病気がある場合は適切に管理することが重要です。
- 禁煙・節度ある飲酒: 喫煙は認知症を悪化させる要因となります。適度な飲酒は予防に繋がる可能性も指摘されていますが、過度な飲酒は脳に悪影響を及ぼします。
- 社会活動・知的活動: 趣味や社会的な交流、学習など、知的な刺激のある活動を積極的に取り入れることが推奨されます。
- 介護者の心構えと対応
- 患者様の不安な気持ちに寄り添い、否定せず、安心できる環境を整えることが大切です。
- できることは継続してもらい、役割を持つことで患者様の自信を支えましょう。
- 介護はご家族の負担も大きいため、一人で抱え込まず、早い段階から地域の支援サービスや専門機関を活用することが重要です。
よくある質問
Q1: もの忘れが増えたと感じたら、すぐに受診すべきですか?
A1: 「年のせいかな」と自己判断せず、一度専門医に相談することをお勧めします。特に、同じことを何度も話す、物の置き場所を完全に忘れてしまう、日付や場所が分からなくなるなどの症状が見られる場合は、早めの受診が重要です。早期に診断することで、適切な治療やケアを早く始めることができます。
Q2: 認知症の予防のために、日常生活でできることはありますか?
A2: バランスの取れた食事、適度な運動、質の良い睡眠を心がけましょう。また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を管理すること、禁煙すること、趣味や学習など新しいことに挑戦して脳を活性化させることも大切です。社会との交流を積極的に持つことも、認知症予防に繋がると言われています。
Q3: 家族が認知症と診断されました。どのように接すれば良いでしょうか?
A3: 患者様はご自身の変化に不安や戸惑いを感じています。間違いを指摘したり、無理にやらせたりするのではなく、共感し、気持ちに寄り添う姿勢が大切です。できることは継続してもらい、できたことを褒めることで自信を保つことができます。また、介護するご家族自身の心身の健康も非常に重要です。一人で抱え込まず、地域の支援サービスや専門家を頼ることも検討してください。当院では、患者様だけでなく、ご家族のお気持ちや体調にも配慮したサポートを心がけています。
Q4: 若年性アルツハイマー型認知症とは何ですか?
A4: 65歳未満で発症するアルツハイマー型認知症を「若年性アルツハイマー型認知症」と呼びます。働き盛り世代での発症となるため、生活や社会活動への影響が大きく、より一層のサポートが必要となります。遺伝的な要因が関与するケースも見られますが、一般的なアルツハイマー型認知症と同様に、早期発見と治療が重要です。
Q5: 認知症の検査は痛みを伴いますか?
A5: 認知機能検査は質問に答えたり簡単な作業を行うもので、痛みはありません。脳画像検査(MRI、CT)も基本的に痛みはありませんが、MRIでは大きな音がしたり、狭い空間での検査になるため、苦手な方は事前にお申し出ください。脳脊髄液検査は腰椎穿刺を伴うため、多少の痛みはありますが、局所麻酔を使用し、安全に配慮して行われます。当院では、安心して検査を受けていただけるよう、スタッフが丁寧にご説明いたします。