良性発作性頭位めまい症(BPPV)
良性発作性頭位めまい症(BPPV)とは
良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、特定の頭の動きで「ぐるぐる」と世界が回るようなめまいが短時間(数秒から数十秒程度)起こる病気です。特に40〜60代の女性に多く見られますが、耳鳴りや難聴、手足のしびれなどの神経症状を伴うことはありません。
このめまいは、耳の奥にある平衡感覚を司る「内耳」の「耳石器」から剥がれ落ちたごく小さな「耳石」が、「三半規管」に入り込むことで発生します。耳石が三半規管のリンパ液と共に動くと、誤った信号が脳に送られ、めまいとして感じられるのです。症状は比較的早く治まるため「良性」と名付けられています。
良性発作性頭位めまい症(BPPV)の症状について
良性発作性頭位めまい症のめまいは、以下のような特徴があります。
- 特定の頭の動きで誘発される
- 朝目覚めて体を起こす時
- 夜に寝床に入って体を横たえる時
- 顔を洗うために前かがみになり、顔を上げる時
- 寝返りを打つ時
- 深くお辞儀をする時
- 高いところの物を取る時
- 靴紐を結んで顔を上げる時
- 歯医者の診察台で横たわる時
- 美容院でシャンプーの姿勢をとる時
- 目薬をさそうとする時
- めまいの持続時間: 数秒から長くても数十秒程度で、1分以内には治まることが多いです。
- めまいの種類: 「ぐるぐる」と回転するめまいが典型ですが、少し落ち着くと「ふわふわ」とした浮遊感が続くこともあります。
- 難聴や耳鳴りを伴わない: 聞こえに変化はありません。
- 繰り返すうちに落ち着く傾向: 何度かめまいを繰り返すうちに、症状が次第に弱まっていくことがあります。
受診を強く推奨する症状や状況
以下のような症状が同時に現れた場合は、良性発作性頭位めまい症以外の重篤な病気(脳出血、脳梗塞など)の可能性があるため、速やかに医療機関を受診してください。救急車の要請もご検討ください。
- めまいが時間経過とともに悪化する
- 手すりにつかまっているのに歩けない
- ひどい頭痛がある
- 手足に力が入らない
- 言葉が思い出せない、うまく喋れない
- 意識が朦朧とする
特に、高血圧や糖尿病、コレステロールが高い方、喫煙歴が長い方は注意が必要です。当院では脳神経内科専門医による診察と、CT・MRIによる精密検査が可能ですので、ご不安な場合はご相談ください。
良性発作性頭位めまい症(BPPV)の診断と検査について
良性発作性頭位めまい症の診断は、主に問診と身体診察によって行われます。患者様からめまいが起きる状況や症状の具体的な内容を詳しくお伺いすることで、おおよその診断が可能です。
診察では、医師が患者様の頭を特定の方向に動かし、めまいが誘発されるか、その際に目の異常な動き(眼振)が確認できるかを調べます。眼振のパターンによって、耳石が三半規管のどの部分に入り込んでいるかを特定できることがあります。
当院では、必要に応じて以下の検査を行うことがあります。
- CT検査: MRI検査と同様に、脳の状態を評価するために行われることがあります。
- 脳波検査: けいれん発作や意識障害を伴うめまいの場合など、脳の電気的活動を調べるために行うことがあります。
これらの検査を組み合わせることで、より正確な診断を行い、適切な治療方針を決定します。
良性発作性頭位めまい症(BPPV)の治療法について
良性発作性頭位めまい症の治療は、主に以下の方法で行われます。
薬物療法
めまいがひどい時期には、めまいや吐き気を和らげるためのお薬を処方することがあります。ただし、お薬は耳石を溶かしたり取り除いたりするものではなく、症状を一時的に抑える役割です。良性発作性頭位めまい症の場合、お薬だけでは根本的な改善には繋がりにくいことが知られています。当院では、薬物依存症を生み出さないためにも、漫然と抗めまい薬を長期に処方することはしない方針としております。
リハビリテーション(運動療法)
良性発作性頭位めまい症の最も効果的な治療法は、実は患者様ご自身で行う「リハビリテーション(運動療法)」です。めまいが怖いからといってじっと寝ていると、耳石が再び固まり、症状が長引く原因になることがあります。積極的に頭を動かすことで、三半規管に入り込んだ耳石を元の場所に戻したり、小さなかけらに砕いたりすることができ、めまいが起きにくくなります。
- 耳石を散らす体操: めまいが起きるような頭の動きをあえて繰り返すことで、耳石を三半規管から排出しやすくします。
- 寝返り体操: 仰向けに寝て、左右にゆっくりと寝返りを繰り返します。
- 頭位変換体操: 医師や理学療法士の指導のもと、特定の頭の位置をとる体操を行います(エプリー法、レンパート法など)。
- 平衡感覚を鍛える体操: バランス感覚を養うための体操も有効です。
- 座ったままでお辞儀や頭で大きく円を描く運動
- 目をつぶって足踏みをする
- バランスボールに座って体を揺らす
これらの体操は、めまいが起きても転倒しないように、周囲の硬い物を片付けた広い場所や、柔らかい床(畳、絨毯、ベッドの上)で行うようにしてください。特にご高齢の方や体の硬い方は、ご家族と一緒に安全に配慮して行ってください。
予防と自宅でのケア
- めまい誘発原因の除去: ストレス、過労、風邪などがめまいを誘発することがあるため、これらを取り除くことも大切です。
- 起床時の注意: ベッドから起きる際は、ゆっくりと起き上がり、しばらく座った状態を維持してから立ち上がるようにしましょう。
- 規則正しい生活: 適度な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠を心がけ、規則正しい生活を送ることが再発予防にも繋がります。
- 体を動かす習慣: デスクワークなどで長時間同じ姿勢をとることが多い方は、休憩中に体を動かす習慣をつけるなど、意識的に体の軸が大きく動く運動を取り入れましょう。
よくある質問
Q1: 良性発作性頭位めまい症はどのくらいで治りますか?
Q1.多くの場合は2〜3週間程度で自然に治ると言われています。しかし、再発することも少なくありません。1年で約30%、5年で約50%の再発率があるため、症状が治まっても、再発予防のための生活習慣の管理や、医師からの指導があった場合はリハビリを継続することが大切です。
Q2: めまいが怖いので、できるだけ安静にしていたいのですが?
Q2.良性発作性頭位めまい症の場合、安静にしすぎると耳石が三半規管の中に留まりやすくなり、かえって治りが遅くなることがあります。めまいが起きるのを恐れず、医師の指導のもとで積極的に頭を動かすリハビリを行うことが、早く治すための鍵となります。
Q3: 肩こりやストレスとめまいは関係ありますか?
Q3.肩こり自体が良性発作性頭位めまい症の原因になることはほとんどありません。むしろ、めまいを気にして肩をすくめるような姿勢を取り続けることで、結果的に肩こりが生じることがあります。また、気圧の変動やストレス性の頭痛が関係するめまいもありますが、良性発作性頭位めまい症においては、ストレスや気圧は直接的な原因とは考えられていません。不安な場合は、ご自身の症状が何によるものか、医師にご相談ください。
Q4: めまいが治った後も注意することはありますか?
Q4.一度治っても再発する可能性があるため、日頃から適度な運動を心がけ、規則正しい生活を送ることが再発予防に繋がります。また、もし再びめまいを感じるようであれば、自己判断せずに当院にご相談ください。