坐骨神経痛
坐骨神経痛について
坐骨神経痛は、特定の病気の名前ではなく、腰から足の先まで伸びる人体で最も太く長い神経の束である「坐骨神経」が圧迫されたり刺激を受けたりすることで現れる、痛みやしびれなどの症状の総称です。この症状は、腰やお尻、太ももの後ろ、すね、ふくらはぎ、足先に電気が走るような痛み、しびれ、麻痺、強く張る感じ、冷感、焼けるような痛み(灼熱感)、締めつけられるような感じなど多岐にわたります。ほとんどの場合、腰痛が先行し、その後に坐骨神経痛の症状が臀部や太ももの後ろ、すね、つま先などに広がっていく傾向があります。重症化すると、歩行が困難になったり、排尿・排便に問題が生じたりすることもあります。
坐骨神経痛の症状について
坐骨神経痛の症状は、お尻や太もも、すね、ふくらはぎ、足にかけて現れます。一部だけに症状が出ることもあれば、脚全体に症状が現れることもあります。
具体的な症状の例
- 鋭い痛みやしびれ: 電気が走るような、ピリピリとした感覚。
- 麻痺、張った感じ: 足に力が入らない、感覚が鈍いといった状態。
- 冷感、灼熱感: 足が冷たく感じる、あるいは焼けるように熱い感覚。
- 締めつけられるような感じ: 足がバンドで締めつけられているような感覚。
- 間欠性跛行(かんけつせいはこう): しばらく歩くと痛みやしびれが生じ、少し休むと再び歩けるようになる症状。
- 歩行障害: 症状が強くなると、スムーズに歩くことが難しくなる。
- 下肢の脱力、排尿・排便障害: 重い症状の場合に起こりうる、より深刻な合併症。
特に、夜間や明け方に症状が強くなる傾向があることも特徴の一つです。
坐骨神経痛の考えられる原因
坐骨神経痛の原因は多岐にわたりますが、主に坐骨神経がどこかで圧迫されることによって起こります。
- 腰椎椎間板ヘルニア: 背骨の骨と骨の間にあるクッション(椎間板)が飛び出し、神経を圧迫する病気です。若い方に多く見られ、重い物を持った時などに激痛が走ったり、片足だけに痺れを感じたりすることがあります。
- 腰部脊柱管狭窄症: 中高年に多く見られる病気で、背骨の中の神経が通るトンネル(脊柱管)が狭くなり、神経を圧迫します。間欠性跛行が特徴的で、尿が出にくい、残尿感があるなどの排尿障害を伴うこともあります。
- 梨状筋症候群: 坐骨神経が梨状筋というお尻の筋肉のトンネルを通る際に、この筋肉が硬くなることで神経を圧迫し、お尻や太ももに痛みやしびれが生じます。激しい運動や長時間のデスクワークが原因で発症することが多く、MRIやレントゲンでは見つけにくい場合があります。
- 変形性腰椎症: 加齢により椎間板が損傷し、腰の骨が変形することで神経が圧迫される病気です。
- 腰椎分離症・分離すべり症: 腰の骨に負担がかかることで疲労骨折を引き起こし、神経を圧迫することがあります。
- 脊椎炎・脊椎カリエス: 細菌が血流を介して背骨に運ばれ、化膿することで坐骨神経痛を引き起こすことがあります。
- その他の原因: 坐骨神経の腫瘍、アルコールによる中毒、糖尿病、帯状疱疹、下肢の動脈閉塞、子宮内膜症などの婦人科疾患が原因となることもあります。また、喫煙やストレスも坐骨神経痛の要因となり得るとされています。体質や骨の形といった先天的な要因で発症するケースもあります。
坐骨神経痛の診断と検査について
坐骨神経痛の症状でお困りの際は、原因を正確に特定し、適切な治療を行うことが大切です。当院では、患者様のお話を丁寧に伺い、以下のような検査を組み合わせて診断を行います。
- 問診・理学検査: まず、どのような時に、どの部位に、どのような症状が出るのかを詳しくお伺いします。その後、膝を伸ばしたまま脚を上に挙げる「下肢伸展挙上試験」など、医師が実際に患者様の脚の感覚や力が入るかを調べる理学検査を行います。
- 画像検査:
- レントゲン検査(X線検査): 骨折の有無、骨の変形、関節の状態など、骨格の異常を確認する基本的な検査です。
- MRI検査: レントゲンでは分かりにくい椎間板の状態、神経の圧迫、靭帯や半月板の損傷などを詳細に評価できます。脳や脊椎、関節、腹部、骨盤内の臓器など、全身の様々な部位の異常を詳しく調べることができ、放射線被ばくの心配がありません。当院では、脳神経内科や整形外科の専門医による診察のもと、当日中のMRI検査も可能な場合があります。
- CT検査: X線を使って体の断面画像を撮影する検査です。MRI検査に比べて検査時間が短く、広範囲を一度に撮影できるのが特徴です。特に骨の詳細な評価や、出血、内臓の腫瘍などを調べるのに優れています。
- 神経伝導速度検査(NCS)・筋電図(EMG): 手足のしびれや力の入りにくさの原因を調べる検査です。末梢神経に電気刺激を与え、信号が伝わる速さや筋肉の反応を測定することで、神経がどこでどの程度障害されているか、あるいは筋肉自体の病気なのかを判断するのに役立ちます。
これらの検査を組み合わせることで、坐骨神経痛の原因を正確に診断し、患者様一人ひとりに最適な治療方針を決定します。
坐骨神経痛の治療法について
坐骨神経痛の治療は、痛みの緩和と原因となっている疾患の改善を目指します。当院では、内科、整形外科、脳神経内科の連携により、患者様それぞれの症状や状態に合わせた多角的なアプローチで治療を行います。
薬物療法
- 内服薬: 痛みや炎症を抑えるための痛み止め(非ステロイド性消炎鎮痛剤など)や、神経の興奮を抑える薬、筋肉の緊張を和らげる薬などが処方されます。末梢神経の保護・再生を促すビタミンB12製剤を使用することもあります。
- 外用薬: 痛みのある部位に直接貼る湿布や塗り薬なども有効です。
神経ブロック注射
痛みが強く、内服薬で効果が不十分な場合には、圧迫されている神経の周りに直接薬(局所麻酔薬やステロイドなど)を注入する神経ブロック注射が有効です。これにより、痛みや炎症を抑えるだけでなく、興奮して過敏になっている神経を落ち着かせ、痛みの悪循環を断ち切る効果が期待できます。当院では、専門医によるブロック注射が可能です。
リハビリテーション・運動療法
痛みが軽減してきた段階で、運動療法を取り入れることが大切です。医師や理学療法士が、坐骨神経痛の原因や状態に合わせたストレッチや筋力トレーニングを指導し、症状の再発予防や身体機能の改善を目指します。
生活習慣の改善・セルフケア
ご自宅でできる対処法やセルフケアも非常に重要です。正しい方法で行うことで症状の緩和が期待できますが、痛みが強い時に無理に行うと悪化させる可能性もあるため、医師の指導のもとで取り組むことが大切です。
- 正しい姿勢を保つ: 座る際には体重が左右のお尻に均等にかかるように意識しましょう。
- 長時間の同じ姿勢を避ける: デスクワークなど、長時間同じ姿勢を続ける場合は、こまめに休憩を取り、軽いストレッチを行いましょう。
- 重いものを持ち上げる際の注意: 腰に負担がかからないように、膝を曲げて姿勢を低くし、体の近くで持ち上げるようにしましょう。
- 体を冷やさない: 毎日ぬるめのお湯にじっくり浸かって体を芯まで温めるなど、冷え対策を心がけましょう。
- 適度な運動: ウォーキングなど、毎日軽い運動を継続することで、血行促進や筋力維持に繋がり、症状の改善に役立ちます。
- 肥満の解消: 体重が増えると腰への負担も大きくなるため、適正体重を維持するよう努めましょう。
- 禁煙・ストレス管理: 喫煙やストレスも坐骨神経痛の要因となり得るため、生活習慣の見直しも重要です。
手術療法
保存的治療(薬物療法、リハビリテーション、神経ブロック注射など)で症状の改善が見られない場合や、下肢の脱力、排尿・排便障害などの重篤な症状がある場合には、手術が検討されることがあります。
よくある質問
Q1. 坐骨神経痛は自然に治りますか?
A1.軽度のものであれば、自然に症状が改善することもあります。しかし、「自然に治るだろう」と自己判断して放置するのは危険です。症状が進行すると、運動機能や感覚機能の低下が進み、治療が難しくなることがあります。症状に気づいたら、できるだけ早く医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
Q2. どのような症状が出たら病院を受診すべきですか?
A2.以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
- 足のしびれや痛みが強く、日常生活に支障をきたしている。
- 歩行が困難になっている。
- 足に力が入らない、麻痺がある。
- 排尿・排便に障害がある(尿が出にくい、残尿感があるなど)。
- 痛みがどんどん悪化している。
- 発熱を伴う場合。
Q3. 高齢者でも坐骨神経痛になりますか?
A3.はい、高齢者の方にも多く見られます。特に、加齢による腰部脊柱管狭窄症や変形性腰椎症が原因となるケースが圧倒的に多くなっています。若い方では腰椎椎間板ヘルニアが原因となることが多いです。
Q4. 自宅でできる対処法はありますか?
A4.はい、冷え対策として湯船にゆっくり浸かる、正しい姿勢を心がける、長時間同じ姿勢を続けない、適度な運動を行うなどが挙げられます。ただし、痛みが強い時は無理をせず安静にすることが重要です。自己判断で無理なストレッチや運動を行うと、かえって症状を悪化させる可能性もありますので、必ず医師の指導のもとで行ってください。
Q5. 坐骨神経痛の予防法はありますか?
A5.日常生活での姿勢に気をつけ、長時間同じ姿勢を避ける、適度な運動で体幹を鍛える、体を冷やさない、体重管理を行うなどが予防に繋がります。また、喫煙やストレスも要因となることがあるため、健康的な生活習慣を心がけることも大切です。